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揮発性有機化合物の測定
現場で簡単にできる揮発性有機化合物の測定方法をご紹介します。
この文章は、1992年にある科学誌に書いた文章を元にしています。図や写真は、その科学誌からスキャンしたので、あまり見かけは良くないと思いますが、ご了承下さい。
I.はじめに
揮発性有機塩素系化合物(以下、有機溶剤と呼ぶ)は、半導体のプリント基盤や洋服のクリーニング等で油や脂肪を洗浄する用途に使われています。また,引火や変質などが起こりにくいため大変扱いやすく,諸工業には無くてはならない物になっています.その反面,人間の中枢神経や肝臓などに障害を起こしてしまう事が知られています.近年になって,地下侵透などによる,地下水の危険性が問われ,各地で汚染の実態調査や原因究明の調査が行われるようになりました.
これらの調査で実際に使用されている測定方法のうち,検知管を使った方法を,私の経験をもとに紹介いたします.
表1に現在法律などで規制されている揮発性有機塩素系化合物をあげました.これらのうち,トリクロロエチレン(以下TCEという)テトラクロロエチレン(以下PCEという),1-1-1、トリクロロエタン(以下MCという)の3種類の測定方法を紹介します.器具があれば,誰にでもできますのでぜひ測定してみて下さい.
今回紹介する測定方法は,検知管によるへッドスペース法という手法を用います.検知管とは,薬剤の詰まった細い管の中に,サンプルである気体を通過させ,測定対象物質が存在する場合に薬剤が反応・変色し,サンプル気体中の対象物質濃度を求める事ができる物です.今回測定する有機溶剤は,その名の通り揮発性が高く,仮に水中に溶け込んでいても,曝気させてやると,容易に空気中へと揮発していきます.この性質を利用して,揮発した空気中の濃度から,地下水中・地層中の濃度を求めます.今回紹介する検知管によるヘッドスペース法は,簡単にまとめると以下のように大変優れている点があります.
- 方法が簡単で,誰にでもできる.
- 正確に濃度の比較ができる.
- 現場ですぐに結果が得られるので多数測定でき,しかもその場で次の対応ができる.
- 分析機関の分析よりもはるかに費用がやすい.
このように良い点がある反面,
- 器具購入に多少のお金がかかってしまう,
- 分析機関の分析に比べ精度が落ちる等の欠点もあります
しかし、汚染の実態把握などの調査には大変向いています.
II.用意するもの(写真1参照)
- 対象とする有機溶剤の検知管
ここに紹介する調査では,株式会社ガステックのものを用いました.検知管は,表2に示したように有機溶剤の種類や濃度によっていくつか用意されています.値段:1箱10本入りで,定価1,500円
- 検知管用の吸引ボンプ
ガステック製のものを用います.値段:カタログNo.800定価13,500円
- 水採取用広口びん
内容量500ミリリットル程度のもので,口が吸引ボンプよりもやや小さいものを選びます.ボンプよりも径が小さい理由は,検知管の吸引・反応に1〜2分程度かかり,その間あまり外気を入れないためです.びんのふたはネジになっており,水をいれても気体の漏れがなく,裏ぶたはテフロンのものを用います.裏ぶたがゴムなどの場合,有機溶剤がもし高濃度なら,溶けて反応してしまうからです.当社では,商品名サンボトルというものとイワキガラス製の2種類を使用しています.
- 温度計
検知管測定後,気相部分の温度を測定するためのもので,棒状温度計がやすくて使いやすいでしょう.気相部分の温度を測定する理由は,検知管で測定したビン内の気相濃度から水中・地層中の濃度に換算(後述)するためです.
- 温度計保持用の板ゴム
ビン内部の温度を測定するときに温度計を保持させるための物で,外気が入りにくい物ならなんでも結構です.
ガステックでは,以上の器具を1セットにして簡易排水セットとして売っています.このセットに付いている吸引ボンプは簡易ポンプのため,細かく測定する事ができません.セットでは購入せずに,別々に購入する事をお薦めします.
なお株式会社ガステックの連絡先は,営業本部:〒252 神奈川県綾瀬市深谷6431,電話0467(79)3911
III.地下水の採取
採取をするときは,以下の点に注意をして採水を行って下さい.
- 有機溶剤が揮発してしまいますので,泡立てないようにする事.
- 地下水の流動状態によって検出されたり,まわりで地下水を汲んでいる場合があるので,採水日と時間を記録しておく事.
- 井戸水の場合
井戸にポンプがついている場合,ポンプ内または,圧力調節用タンク内の水がすべて新しい地下水と置き変わり,かつ新鮮な地下水が出てくるまで,蛇口をいっぱいにあけておきます.ある程度時問がたった後,泡立たないように採水します.もしその場で測定ができない場合は,気泡を入れないようにビンに採取し持ち帰ります.ボンプがない場合,採水用の道具が必要です.井戸内の水を乱さないように採水できる物であるほうが,よいデータが得られます.私の勤務する会社では,フロロウエアというアメリカの会社のテフロン製の井戸孔内採水器を使用していますが,これは残念ながら個人の購入はできないようです.そこでテフロン製ではありませんが,一般用途としてよく使っている,有限会社吉野計器製作所(電話03−3917−3612)の井戸孔内採水器(機種No.Y561 33,000円)を紹介します.採水後は,採水した深度を記録しておき,次回から同じ深度で採水をするようにします.また,深度によって濃度が異なる場合が多いので,できれば多層にわたって採水をした方がよいと思います.多層採水の場合,必ず上から採水を行います.
使用されていない(汲み上げていない)井戸の場合は,何もしないで採水した水と,ストレーナー付近で何回も汲み上げた後の新鮮な水とで濃度を比較するとよいでしょう.
- 湧水の場合
特別に注意点はありませんが,湧泉の湧水地点にできるだけ近いところから採水を行う,流れの中で,泡立つようなところは避ける,等です.
IV.地下水中の濃度測定方法
測定の前にびんの正確な内容量をはかります.あとで気相(びん内部の気体の部分)の濃度から,地下水中・地層中の濃度に換算するときに必要な値です.はかり方は,重さをはかった空びんに,口元まで水をいれ,その重さを計ります.この重さから空びんの重さをひいてやれば,内容量の重さになります.
(1)測定(写真2から5参照)
- はじめに吸引ポンプの動作確認をします.検知管を箱から出したままの状態で吸引ポンプにセットし,吸引をしてみます.1分ほど放置し,ハンドルを戻してみます.勢い良く戻らなかったり,途中で止まって最後まで戻らなくなってしまう場合は,逆止弁の不良です.弁のゴムを交換して下さい.測定の前に1日1回は,チェックをするようにして下さい.
- 水を泡立てないように,静かに測定用のビンに200ミリリットル入れます.漏斗などを使って入れても良いのですが,毎回必ずきれいな水で洗って下さい.
これより後の作業は、ビン内温度が変化しないように日陰で行ってください。ひなたの場合,びん内部の温度が分析中に変化し,水中から気相へと揮発する量が変わってしまうためです.
- ふたをきちんと締めて,1分間振とうして下さい.びんを縦に持って良く泡立たせます.
- その後2分間静置します.
- 静置している間に,検知管の両先端を,吸引ポンプのチップブレーカーに差込み,折って開封します.
- 吸引方向を間違えないように,ボンプに検知管を差し込みます.検知管の'G’マークの矢印が,吸引する気体の通る方向です.すなわち,矢印の先端が吸引ボンプを向く方向です.MC用(検知管No.135)も同様に,マークをあわせるように,2本つないでボンプに差し込みます.検知管は上下2種類ありますので、箱の裏を見て間違えないようにして下さい.
- ビンのふたを静かに開け,すばやく検知管をいれ,ハンドルの赤矢印と本体の赤線をあわせ,一気に吸引します.そのときボンプ本体でふたをするようにし,外気をあまり入れないようにします.また,吸引中に水を吸ってしまいますと,測定が無駄になってしまいますので注意が必要です.
- 検知管の箱に書いてある所定の時間,吸引・反応させます.反応時間経過後に,すぐに値を読み取ります.有機溶剤が入っている場合は,検知管が紫色(または椅色)に変色します.時間が経過しますと,色があせてしまう事があります.変色の先端で,検知管に印刷されている目盛りを読みます.この値が気相中の濃度です.変色の先端が斜めの場合は,最高と最低の中間で読み取ってください.変色部分が,最低目盛りに達しない場合,検知管の種類を変えて(表2参照)もう一度採水して測定し直して下さい.もし手元にない場合は,2回吸引します.一回目の反応時間経過後すぐに二回目を吸引し,一回目と同じ反応時間経過後に,目盛りを読みとります.読みとった値は,検知管の箱に書いてある補正(吸引量補正)を行ってください.変色部分が,最高目盛りに達した場合は,検知管の種類を変えます.もし手元に無い場合は,半分の吸引量にして,検知管の箱に書いてある補正(吸引量補正)を行ってください.
- ビン内温度を測定します.気相部と液相部とは同じ温度として、分析をしています。従って、液相部を測定する方が、楽だと思います。
(2)測定にあたっての諸注意
- 異なる水を測定する場合,ビンとふたの洗浄は,きれいな水(十分に煮沸し、塩素等をとばした水道水)で十分に行ってください.特に濃い濃度を測定した場合,思ったよりも影響は残っています.
- 検知管の保存は冷蔵庫へ.使用するときは,冷蔵庫からあらかじめ出しておき,外気温になじませます.使用中でも,直射日光や高温になる場所には置いておかないこと.
- たとえ冷蔵庫に保管していても,検知管に書いてある有効期限は守ること.
- 後で示す世下水中・地層中への濃度変換を行いますので,検知管の箱についている温度補正表で補正する必要はありません.
- 同じ測定対象の有機溶剤でも,表2のように濃度によって検知管の種類が分かれています.たとえ同じ濃度を測定しても,MタイプやHAタイプでは若干測定値が異なりますので,検知管の種類とボンプの吸引回数を記録しておく必要があります.
- ボンプの吸引回数(ストローク数)は,検知管の種類により基準ストローク数が決められています.最大・最小ストローク数も決まっています.検知管の入っている箱で確認して下さい.
- 試験水に油脂分が混入すると,測定誤差が大きくなります.ガラスびんの洗浄や採水は十分に注意してください.
- 一度測定した水は,2度と測定できません.再び採水します.
- TCEとPCEの区別はできません.検知管は同一物で,目盛りが異なるだけです.
- 他に反応してしまう物質として一般的に見られるものは,
1.水道水中の塩素(ハロゲン)や塩化水素でも変色.2.トルエンなどの有機溶剤が多く含まれると,指示値が低下する.などの注意が必要です.
- MC用(No.135等)の検知管は,他の物質の影響を受けやすいようです.変色が不鮮明だったり,漸移的に変色しているような場合,他の物質による影響(他の何らかの物質が入っている)を考える事ができます.
- 検出されない場合(変色しない場合),検知管はおおよそ1日位の間でしたら,何度か使用できます.ただし,非常に薄く検知管に現れないような濃度が数サンプルあった場合,何サンプル目かには変色してしまいます.そのサンプルを過大評価する危険がありますので,できれぱ1回にした方がよいかと思います.
- 使用済みの検知管は,対象物質の種類毎にまとめて,メーカーへ送ります.
V.地下空気の有機溶剤濃度の測定方法
基本的には,一定の深度の地下空気中の有機溶剤の濃度を測定します.
(1)用意する物
- 鉄筋棒などの,検知管より2まわりほど太く,長さが1m位の棒.
- その棒を地中へ入れるための,ハンマー.
- 捧を抜くための,パイプレンチ等. 私の勤務先では,これら3点の道具として大肯精密株式会社(電話03-3755-3311)のボーリングバーを使用しています.定価は,11,000円です.
- 検知管用地中採取延長管.検知管を先につけ,地中に降ろすためのもので,ゴム製のチューブまたはステンレス製の棒状のものです.ガステックでは,ネオプレンゴム製の物が4.500円(カタログNo.350A)ステンレス製テフロンコーティングの棒が16,000円(カタログNo.360)で販売しています.
- 前にで紹介した検知管などの測定器具.
(2)測定(図1参照)
- 棒で一定深度まで孔をあける.
- 地中採取延長管の先に検知管をつけ,孔の中に入れる.孔にはキャップをして,外気が入らないようにする.
- 地上の吸引ポンプを引く.あとは,地下水の測定方法と同じです.空気中の濃度を調べるのですから,読み取った値は,気温補正(箱の裏に書いてある補正)をするだけで,濃度値となります.
(3)測定にあたっての諸注意
- あける孔の容積は,常に同じようにする事.
- 検知管は孔の底まで降ろさない.先端が土でつまってしまい,測定できなくなります.その場合は,測定(反応)時間が経過しても,ポンプがもとに戻ろうとするのでわかります.
- もし測定に失敗しても,同じ孔ではすぐには測定できない.横に再度掘る.
- 濃度にもよるが,あけた孔は1日ほど経過すれば,再測定できる.この場合必ずふたをしておく.
- 検知管の測定深度は,できるだけ同じ方がよい.
VI.地層中の有機溶剤濃度の測定方法
基本的に水と同様の測定法を用います.
(1)用意する物
- はかり
当社ではハンディタイプで,最小目盛り0.1グラム,100グラムまではかれるものを使っています。値段は約1万円くらいです。家庭用の食品計量用のものでもいいのですが、できれば精度が1グラム以下のものを使用することをおすすめします。
- 薬さじ
地質試料を取り分けるために使います。家庭用の18-8ステンレスまたは樹脂製のスプーンで十分です。
- 薬包紙などの地質試料を包むもの
- 前に紹介した検知管などの測定器具
(2)測定(図2参照)
- 地質試料を自然状態のまま一定量はかります.この試料は図にもあるように40から20グラム程度であれは基本的に何グラムでも良いのですが,常に一定量に決めておきます.
- この試料を,水の汚染測定で使ったビンと同じ 容器に入れ,水を200ミリリットル入れます.(水は十分に煮沸し塩素等をとばした水道水でよい)
- 地下水の測定方法と同様に,1分振とう,2分静置,検知管による気相部分の測定を行います.
(3)測定にあたっての諸注意
- 試料の測定は,試料採取後直ちに行って下さい.時間がたてば,有機溶剤はどんどん揮発してしまいます.
- 礫や貝殻などの固形物は,なるべく避けるようにします.シルト質なものは少しくだいて,砂質の物は,乱さずに採取します.
VII.測定した値から真の値を求める
(1)水中濃度への換算
びん内の気相部分の濃度から、水(地下水)中の濃度に換算します。
鈴木他(1989)による換算式を示します.
Cw=Cg×M×(VL/H+Vg)/(1000×R×(273+T)×VL)
ここに
- Cw=水中の有機溶剤の濃度(mg/L)
- Cg=検知管の目盛りの読み値(ppm)
- M=有機溶剤の分子量
TCE=131.4
PCE=165.8
MC=133.4
- VL=検査する水の容量(L)
- H=気液分配係数(図3参照)
- Vg=ガラスビン中の気体容量(L)
- R=気体定数=0.082とする
- T=ビン内の温度(摂氏度)
(2)土壌(地層)中の濃度への換算
びん内の気相部分の濃度から,地層中の濃度に換算します。
Cs=VL×Cw/M
ここに
- Cs=地層中の有機溶剤の濃度(mg/kg)
- VL=ビンに入れた水の容量(L)
- Cw=水中換算濃度(mg/L)
- M=地層試料の湿重量(g)
VIII.本文章を作成するにあたって引用・参考した文献
- 藤縄克之(1990)汚染される地下水.共立出版,東京.
- 株式会社ガステック(1991)ガステック検知管リスト,第3号.
- 環境庁水質保全局監修,水質法令研究会編集(1991)地下水の水質保全.
- 中央法規出版,東京. 日本地質学会関東支部(1991・)第三回地下水地層汚染調査対策技術研修会テキスト.
- 日本水道協会抄録委員会訳,八木正一他監修(1986)WHO飲料水質ガイドライン(1)一勧告一.水道協会雑誌,614,34−91.
- 鈴木喜計他(1989)有機塩素化合物による地質汚染簡易調査法.公害と対策,25,00〜00.
- 竹田一郎(1985)検知管による水中の微量テトラクロロエチレンの簡易定量法,分析化学,34,203〜204.
- 竹田一郎(1986)検知管による水中の微量トリクロロエチレンおよび1,1,1−トリクロロエタンの簡易定量,同上,35,47〜49.
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