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僕の覚え書き
ご注意:このページは、サイト全体の目的として「地下水調査の情報提供」にありますので、それを主として書いています。
地下水のORP値(redox potentioal, Oxidation Reduction Potentialなど)の測定は、この1・2年で、非常にその重要性が言われはじめました(2002,
2003年から急に論文数が増えてきましたよね)。ところが、地下水を実際にフィールドで測定した結果と、解析から求められるデータに、大きな差があります。(このことは、どんな教科書にも書いてありますよね。)
そこで、まずはじめに、地下水のORPについて、ちょっとおもしろそうな論文がありましたので、ここに紹介します。
ひとつは、Review
article (総論)ですので、肩を張らずに読むことができます。大学関係者であればSciencedirectからpdfがダウンロードできますので、ご一読下さい。
Characterization of redox conditions in groundwater contaminant plumes, Journal of Contaminant Hydrology, Volume 45, Issues 3-4, October 2000, Pages 165-241
Thomas H. Christensen, Poul L. Bjerg, Steven A. Banwart, Rasmus Jakobsen, Gorm Heron and Hans-Jorgen Albrechtsen
もう一つは日本語で書かれたもので、冒頭のはじめにの中に「本報告が、Eh測定のマニュアルとなることを期待している」とあります。
「地下水のEh測定に対する注意」地質調査所研究資料集(GSJ Open-file Report) No.358
間中光雄
地下水を測定している酸化還元電位(ORP)って何?、なんて言われる方が多いのですが、大学の先生であれば「教科書を読め」ということになります。確かに、英語のgeochemiの教科書には、Redox
ionとの関係も含めて、かなり丁寧に書かれています。英語という点と、輸入しなければならいという点で、敷居が高いのか、あまり読んでいる方は少ないのが実情です。日本語に翻訳されていませんしね。
最近はインターネットが発達しているため、かなりの方がインターネット上の情報を参照されています。ところが、非常に驚くことがあります。自分で検索してみて気が付いたのですが、日本のサイトで、特に地下水の酸化還元について、ORP値との関係や、Redox
ionとの関係について、かなり間違った知識で書かれていることが多いのです(保健所とか、河川管理者などの公的サイトに多いのです)。
そこで、ORPって何?と思われている方は、とりあえず上記の論文を読んでみて下さい。ページ数はちょっと多いのですが、教科書よりははるかに少ないですよ。とはいえ論文ですから、教科書ほどは易しくありません。
なおこのページに書いてある測定にあたっての注意点は、上記の論文に書かれている注意点を反映したものではありません。ここに書いてある点は、論文に書かれている以前に注意すべき点です。
先日こんな事がありました。火山泥流と段丘堆積物、湖成層が分布する地域で、複数の井戸について、それぞれ取水している帯水層を区分する必要がありました。地質情報や井戸諸元(井戸構造等)を新たに得ることができないため、水質から行うことが計画されていました。以前に行われた調査において、それらの井戸では主要イオン組成(普通に皆さんが行う6成分のみ)が全く同じだったことから、異なる帯水層ではなく、同一の帯水層だろうと推定されていました。またそれぞれの水位変動の挙動が、一致するとも一致しないとも言い切れない微妙な変化でした。そこで水質組成の結果を重視し、異なる帯水層とは判断されてなかったのです。そこでまずは水質調査の基本であるORPの測定を提案し測定してみると、一方は酸化的、もう一方は還元的なEhを、経年的に示したのです。答えは簡単でした。帯水層が異なるのです。ここでの課題は2つです。一つは、通常行われている6成分の主要イオン分析では、酸化還元がとらえられない場合があること。もう一つは、pH,EC,Tempを現地測定するなら、一緒にORPも測定するようにすること。ORP測定は大切なのです。
現在一般的に野外調査で使われている酸化還元電位を測定する電極は、以下のようになっている。もちろんメーカーによって異なるかもしれない。
通常電位はEで表示するが、水素の酸化還元標準電位を基準とするため、酸化還元電位(Eh)として表示する。従ってこの水素の電位として測定するためには、基準電極に標準水素電極、測定電極に白金電極を用いて測定する必要がある。この関係は以下の式の通り。
しかしこの測定方法は現場で実測するには非常に難しい(ものの本を読んでいると、やってやれないことはないらしいが)。そこで一般的に上に記したような塩化銀の電極を用いて測定し、そこで得られた測定値(Eobs)を、標準水素電極を基準極、 白金電極を測定電極とする値に変換することが一般的に行われている。
例えば堀場製作所のW20用のセンサーでは、マニュアルに以下の式を示している。同じ電極(Pt - AgCl)であれば、どこのメーカーでも上の式に従っているはずで理論的には変わりはないはずだが、様々な機械上の制限があることから、微妙に異なる。換算式についてはメーカーに確認のこと。
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堀場製作所で公開しているオンライン分析センターのFAQ中にあるORPの解説ページには、この式は堀場の機器全てで使えるとしている。またその記事中の換算式は「Eh」ではなく「EN.H.E.」(標準水素電極(N.H.E.)での値に換算)と書かれている。
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ただしここで求めた測定値からNHEに換算した値は、Fe3+/Fe2+やNH4+/NO3-などの溶液中に存在する各種Redox couple濃度から計算した値と異なることが通常である。従って、熱力学で言うところのEhではないことに注意が必要である。また白金よりも強い還元力を持つ溶液(例えばクロム)では、当然のことながら測定できないこともある。このため測定値は、Ehと書かずに、ORPSHE またはORP(vs.NHE)として表記し、その単位として(vs. NHE)すなわち「標準水素電極に換算した単位」を付け加えて用いることが正しい。単にORP xx.x (Volt)と測定値を表示している論文をいまだに見かけるが、測定する電極の種類により電位差が異なることは、上記までに記述した内容で容易に理解できることだろう。よってこのように表示する事は行ってはならない。
なお蛇足ではあるが、測定記録には必ず、1)ORP測定値、2)その際の水温、3)ORPSHE、への換算式、を明記しておかねばならない。言うまでもないが、換算式がメーカーによって若干異なることや、後にpeへの換算を行う場合などに必要となるためである。
海外のORPメーターの中には温度補正を自動的に行い、Ehとして測定値を表示するセンサーもあるようであるが、たとえこの測定器を用いたとしても、その測定値はEhとは記載しないほうが良い。
In-Situ社の「Multi Parameter TROLL 9000」によるORP測定値を解析する機会があり、標準水素電極に換算する事についてオペレーターズマニュアルを参照したところ、以下の記載があった。上記に書いてある内容とほぼ同じ事が書いてあるので、参照されたい。
-----以下同測定器マニュアルからの引用-----
ORP values are dependent on solution composition, temperature, and the type of sensor used. ORP (Eh) values reported in the literature are often normalized to the standard hydrogen electrode as a standard reference electrode. Since the standard hydrogen electrode is extremely fragile, it is impractical to use in the field. In-Situ’s sensor uses a silver/silver-chloride reference electrode in place of the standard hydrogen electrode.
The following equation may be used to normalize the readings reported by our sensor calibrated with our solution to standard hydrogen electrode values (±50 mV).
ORPSHE = ORPobserved + {215.81 − TC ⋅ [0.77942 + TC ⋅ 0.001934]}
where
ORPSHE is the sample potential relative to the standard hydrogen electrode
ORPobserved is the sample potential relative to the In-Situ reference electrode
TC is the sample temperature in °C
ORP measured by a sensor immersed in a solution should not be equated with thermodynamic Eh. Differences may occur due to lack of chemical equilibrium, presence of multiple redox couples, sensor poisoning, and other factors.
In addition, like all platinum ORP electrodes, In-Situ’s ORP sensor may give unstable readings in solutions containing chromous, vanadous, titanous, and other ions that are stronger reducing agents than hydrogen or platinum.
なおpeとの関係式は以下の通りである。
redox potentioal expressed as -log[e-].
[e-] is 'activity' of electrons.
- pe = Eh / (2.303・R・T・F-1)
- ここに R:gas constant, T:temperature in K, F:Faraday constant
- pe = Eh / 0.059 (at 25C-Deg)
AgCl + e- -> Ag + Cl-
この時のEo(標準酸化還元電位)は、KClの濃度と温度で変化する。
・飽和KCl:0.199V、3.5MKCl:0.205V、ともに25oC 1atmの場合
・15oC:0.2286V、20oC:0.2256V、25oC:0.2223V、30oC:0.2190V、ともにCl-がa=1の場合
従って、内部液のKCl濃度は、メーカーの規定通りに入れておかないと、Eh(標準酸化電位)への変換式が適応できないことを意味している。
当然ながらKCl濃度の適正管理は、pHメーターでも同じ事である。しかしpHメーターはキャリブレーションがあるので、さほど問題がないと考えられそうであるが、温度変化特性が変わってしまうため、pHメーター内部にあらかじめ設定してあるキャリブレーションカーブ(pH4とpH7とpH9の補間)が合わなくなるため、「だめ」である。
また測定時は、電極内部のKClの温度が、測定する水温と同じになるまで待って、値を読みとる必要がある。
測定時には、特に電極をきれいにしておくこと。
特に地下水中の鉄分などが電極に付着(赤茶色くなる)すると、分極現象が発生し、何を測定しているのか全くわからなくなる。従って、鉄分の多い地下水を測定した後は、かならず希塩酸で洗うように心がける。
この場合の洗浄方法は、希塩酸(3%程度)の中に電極を入れ、溶液の中で揺らすようにして、付着した鉄分を洗う。なお長時間つけ込むと、電極が侵されるため、十分注意しながら行う。
KClの分子量は74.551なので、
3.33×74.551 (g)を1(L)の純水に溶かせばよい。
しかし、正確にこれを量りとることが不可能なため、極少量多めに量り、このKClにてまずは1(L)でメスアップし、次に差分の水の量をメスピペットにて添加すればよい。
なおKClはあらかじめ110oCの乾燥炉にて、2時間乾燥させ、デシケータの中で放冷したものを用いる。
実際の計算例:100(mL)の3.33(mol)KClを作る
3.33×74.551×(100/1000)≒24.82548(g)より少し多めを量りとる。
実際に量りとった量を24.8317(g)とすると、その差は0.0062(g)である。
この差を3.33(mol/L)とするのであるから、
248.2548(g):1000(mL)=0.0062(g):x/10(mL)
従って、100(mL)に0.015(mL)加えれば良いことになる。
しかしこの量は量りとることができない。このモル濃度を計算してみると、
(24.8317×10)/74.551≒3.33083
となっている。
飽和pH緩衝溶液で作る。
新たにキンヒドロンで飽和したとき±30 mV を生じる。
温度(oC) | フタル酸塩pH4 +キンヒドロン |
中性リン酸塩pH6.8 +キンヒドロン |
---|---|---|
5 | 274.2 | 111.9 |
10 | 270.9 | 106.9 |
15 | 266.8 | 101.0 |
20 | 262.5 | 95.0 |
25 | 257.6 | 89.0 |
30 | 253.5 | 82.7 |
35 | 248.6 | 76.2 |
40 | 243.6 | 69.0 |
指示値が測定温度において上記表の±10〜20mV程度の範囲内にあることを確認すること。
このORPのstandard solutionsには、世界的にはおおむね以下の3種類が使われているようです。
1)Light’s solution
Light’s solutionは「ferrous/ferric」のredox coupleで、作成してからおおむね一ヶ月間は安定しています。しかし、solutionはとてもacidicであり、subject to oxidationです。
2)ZoBell’s solution
ZoBell’s solutionは、「ferrocyanide/ferricyanide」のredox
coupleで毒性があり(cyanideですから当然)、subject
to oxidationです。アメリカではこれが標準のように使われているように聞きましたが、使いたくありませんよね。
3)Quinhydrone solution:上記の表のとおり
Quinhydroneは日本国内で最もよく使われており、pH buffersを4と7で作成するため、対象のpHに応じて確認をすることができます。しかし、数時間しか安定せず、毎測定ごとに作成しなければなりません。
このほかに、海外ではOrion
Research, Inc. という会社が販売している「triiodide/
iodide」のredox coupleのstandard solutionもあるようです。たぶんこれだと思う。非腐食性で、毒性もなく、すぐに使えて、1年以上安定とのことですが、使ったことはありません。
ORPメーターには、pHメーターの様に校正する・キャリブレーションする方法がない、測定値は結構いいかげんだ、なんて声を聞きます。測定機を作っているメーカーですら、平気でそんなことをいう人がいます。(例えば、堀場製作所で公開しているオンライン分析センターのFAQ中にあるORPの解説ページでは、「校正は特に必要ありません」と書いています。)
pHメーターの取扱説明書には懇切丁寧にキャリブレーション方法が書いてあるのに、ORPには書いていない。悲しくなります。こんな事だから、ORP用のフローセルを作る意義を感じないのでしょうかね。
僕がお教えしましょう。要は、同時に測定して、差し引けばよいのです。
詳しくは、Kehewの教科書に書いてあります。
まあ僕が思うに、フローセルをセンサーに接続できるように、現場計測用の外部オプションとしても製造していない日本の測定機メーカーが勉強不足という気がしないでもないのです。地下水からみれば、当然、CO2のdegassingであるとか、Fe2+の酸化に伴うFeOH3の沈殿とか、ORPに限らずpHやECの変化だって、変動する要因がたくさんありますよね。もちろん、センサーまでの経路(井戸の揚水方法とか、それ以前の井戸構造の問題だとか)のことはありますけれど。
と思っていたところ、日本の下記の輸入商社で、フロースルーセルが販売されています。これは、なかなか良くできていて、測定機を買い換える必要がなく、後からセットできるというもののようです。
現実的にはこれが最も良いのではないでしょうか。
フロースルーセル:http://www.technointer.com/GroundwaterEquipments/equipments/ProductsDetail/Observation/SheffieldFlowCell/SheffieldFlowCell.html
ORPには関係ありませんが、関連することを一つ。地下水の現場調査の際に測定する項目にRpH(アールペーハー、アールピーエッチなどと呼ぶ)という項目がありますが、なぜ測定するかわかりますか。あんまり本に書かれていないですけれど、というよりも、ちょっと考えれば分かるので誰も書かないのだと思いますが、このフローセルを使う主要因であるCO2のdegassingにあるんです。もちろんその逆だってありえますけれど。蛇足でしたかねぇ〜?
地下水中のCO2の分圧と、大気圧中でのCO2濃度が異なるため、地下水のCO2は大気中のCO2と交換が行われる。この際に、以下の反応が新たに起きるためである。
CO2 + H20 -> H2CO3
H2CO3 -> HCO3- + H+
この理由により、中性付近の校正用標準液は、なるべく新鮮なものを使用する。
なおRpHを測定するのは、CO2の出入りによって左右されないpHを見ているためである。
ORPと電極がほぼ同一であるため、全く同じである。詳細はORPを参照のこと。
水溶液の電導度は温度1℃上昇すると、約2%大きくなる。温度以外は全く同じ水質であっても、電導度を測定した時の温度が異なっていれば、電導度も異なっている。従って常に同じ温度条件下での電気伝導度を比較しなければならない。
一般的に日本では25℃が標準的に用いられており、野外用の電導度測定機も、通常ではこの温度に補正される事が多い。しかし温度補正のない機器や、この温度以外の機器で測定した場合、一定の温度下での値に補正する必要がある。
25℃に補正する場合の換算式は
λt=λ25{1+α(t−25)}
ここに α:25℃における温度係数で、通常の水の場合約0.020と考えて良い
ORPの項に記載した、鉄分付着と同じ注意が必要である。
鉄分などのように酸化による電極への付着が発生し、また分極現象を発生させるような地下水を測定した後は、希塩酸で洗い、きれいにしておくこと。
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